犬の床ずれ|65施設の実測でわかった「2時間おき」の現実と費用

犬の床ずれについて調べると、どのページにも同じことが書かれています。「2〜3時間おきに体の向きを変えましょう」。

その通りにできなくて、自分を責めている飼い主は多いと思います。1日に8〜12回。夜中も3時間以上まとめて眠れない計算になります。仕事に行っている間はどうするのか、25kgの犬をひとりでどう動かすのか——その先を書いているページは、私たちが調べた範囲では見つかりませんでした。

そこで、老犬の介護を仕事にしている老犬ホーム65施設の公式サイトを1件ずつ読みました(2026年8月19日時点・計1,846ページ)。プロが何時間おきに体位変換しているのかを知るためです。

結果は予想と違いました。体位変換の頻度を数字で明記していた施設は、65施設中0件でした。

【結論】

  • 「2時間おき」を自施設の運用として約束している老犬ホームは、実測65施設のうちゼロ
  • ある施設は公式に「2時間おきに向きを変えれば大丈夫とも言いますが実際は非常に難しいです」と書いている
  • 2施設が完全な予防は困難だと明言している
  • 夜間に体位変換すると明記した施設は4施設(6.2%)。夜間の見回りに1回1,000〜1,500円という値札を付けている施設もある
  • 床ずれの治療費は軽度1回1,000〜4,040円、重度1回13,200〜29,430円。「床ずれ」という名前の料金項目を公開している動物病院は1件もなかった
  • ペット保険の約款に「床ずれ」の免責はないが、マット代は対象外で、通院補償には年間20〜22日の日数制限がある

床ずれはどこにできるか|毎日どこを見るか

床ずれ(褥瘡)は、体の同じ場所が圧迫され続けて血流が滞り、皮膚とその下の組織が傷んでいくものです。骨が皮膚のすぐ下にある場所から始まります。

犬が横になったときに床に当たる部分を思い浮かべてください。

  • 頬骨のあたり:頭を床につけて寝る犬に多い場所です
  • 肩(肩甲骨のあたり):横向きで寝ると体重がかかります
  • 腰・骨盤のあたり:後ろ足が弱った犬が長く同じ姿勢でいると当たります
  • 肘、手首や足首の関節:床に当たる関節の外側で、毛が薄くなりやすい場所です

この部位は、老犬ホームを併設する桑原動物病院が公表している好発部位(肩甲部・腰の部分・頬骨部・肘・肢端の関節)に沿っています。

見るときは、毛をかき分けて皮膚そのものを見てください。毛の上からでは、初期の変化はまず分かりません。

確認したいのは次の3つです。

  1. 色:押しても白くならない赤みが続いていないか
  2. 毛:同じ場所の毛だけ薄くなっていないか、抜けていないか
  3. 湿り:じくじくしていないか、いつも濡れていないか

あわせて、濡れたままにしないことも大切です。排泄で汚れた場所や、よだれで湿った顎のまわりは、皮膚がふやけて傷みやすくなります。オムツを使っている場合は、蒸れとこすれが同じ場所に重なるので、交換のたびに皮膚の色を見てください。

→ 関連記事:老犬のおむつ|嫌がる理由の見分け方と、漏らさない選び方【11製品を実測】

体を拭くときや、シャンプーのときが観察のタイミングとして自然です。清潔ケアのやり方は別記事にまとめています。

→ 関連記事:老犬のシャンプーはどうする?負担を減らす洗い方と、洗えない日の代替ケア【実測データ】

【実測】「2時間おき」を約束している老犬ホームは65施設中ゼロだった

ここがこの記事でいちばん伝えたいことです。

老犬ホーム65施設の公式サイト1,846ページを読み、体位変換について書かれている箇所をすべて拾いました。自施設の運用として「◯時間おきに体位変換します」と数字で書いていた施設は、1件もありませんでした。

老犬ホーム65施設の床ずれ対策の記述内訳。体位変換の頻度を数字で明記した施設は0、エアマット・ウォーターベッドも0、完全な予防は困難と明言が2施設、夜間も体位変換すると明記が4施設、夜間は無人と明記が4施設、装備を具体名で記載が10施設

時間の数字が出てくるページは2件ありましたが、どちらも自施設の運用ではありません。

ひとつは京都の老犬ホームあんの公式サイトです。

2時間おきに身体の向きを変えれば大丈夫とも言いますが 実際は非常に難しいです

プロが、あの数字を否定しています。もうひとつは大阪の施設が飼い主向けに書いた一般的な解説記事で、「一番の床ずれ対策は2,3時間おきに体勢を変えてあげることです」という一文でした。

自施設の運用として書かれていたのは、「定期的に」「必要時」「深夜の見回りの際」といった表現です(6施設)。時間を約束している施設は、業界にひとつもありませんでした。

「完全には防げない」と書いている施設がある

さらに踏み込んで書いている施設が2つあります。老犬ホームあんと、老犬ホームを併設する桑原動物病院が、それぞれ床ずれの完全な予防は難しいと明言しています。あんは「完全に予防することは困難です」、桑原動物病院は「褥瘡を完全に予防するのは困難なこともあり」という書き方です。

そして老犬ホームあんは、こうも書いています。

無理に向きを変えずケアする事も

向きを変えないという選択肢を、プロが提示しているということです。犬の状態によっては、動かすこと自体が負担になる場面があります。

エアマットとウォーターベッドは1件もなかった

床ずれ対策として紹介されることの多い装備についても数えました。エアマットを使っていると書いた施設は0件、ウォーターベッドも0件です。

実際に装備を具体名で書いていたのは10施設(15.4%)で、内容はこうでした。

  • 高反発・低反発・ジェルマットを、犬の体格と介護レベルで使い分ける(桑原動物病院。製品名まで公開)
  • 介護室の床にEVA樹脂を全面敷設(ぱーとなー)
  • 床ずれ防止マットを常備(Rosette+)
  • ハンモック型ベッド(うらら、老犬ホームトップ)
  • 高濃度炭酸泉(Caramelpapa)

残る55施設は、装備について具体的な記載がありませんでした。

プロの現場は、特定の商品で解決していません。体格と状態に合わせて敷物を選び、人が見る。それが実態でした。

「定期的な体位変換」という言葉は証明にならない

ひとつ注意があります。実測の途中で、別々の県の2施設のFAQが、寝たきりの項目で一字一句同じ文章だったことが分かりました。

「定期的な体位変換を行います」という記述は、業界の定型文として広まっているものです。書いてあること自体は、実施の証明になりません。見学のときに何を聞けばいいかは、記事の後半で扱います。

なぜプロも約束できないのか|1日8〜12回という現実

「2時間おき」を数字にしてみます。

24時間を2時間で割ると、1日12回。3時間おきなら1日8回です。夜10時に寝て朝6時に起きるとして、その8時間のあいだに2時間おきなら4回、3時間おきなら2〜3回。まとまった睡眠は最大でも3時間ということになります。

これが1日だけなら耐えられます。しかし寝たきりの介護は数ヶ月から年単位で続きます。

体格の問題もあります。5kgの小型犬なら片手で向きを変えられますが、15kgの中型犬は両手で持ち上げる必要があり、25kgを超える大型犬をひとりで2時間おきに動かし続けるのは、腰を壊さずには続きません。しかも犬が痛がったり、動かされるのを嫌がったりする場合もあります。

そして日中です。仕事に行っている8〜10時間、体位変換はできません。在宅勤務でも、会議中に2時間おきの作業は挟めません。

この現実を、プロの施設は知っています。だから頻度を約束しないのだと考えるのが自然です。頻度を約束するには、24時間その体制を維持できる人員が要ります。

回数より先に、向きの変え方を見直す

「2時間おき」が守れないなら何をすればいいのか。実測の中に、回数の話より重要な指摘が2つありました。どちらも、やみくもに回すことを止める内容です。

大きい犬ほど、回す動作そのものが負担になる

桑原動物病院は公式にこう書いています。

中型・大型犬では、寝たままワンちゃんの体を回転させると、内臓の位置がずれてしまうことがあり、ワンちゃんにとても大きな負担となります。

体重が重い犬ほど、回数を増やすことが正解にならない場面があるということです。どう動かすかは犬の体格と状態で変わるので、具体的なやり方はかかりつけの獣医師に確認してください。「2時間おきに回す」だけを目標にすると、この負担を見落とします。

嫌がって暴れる犬は、動かすこと自体が原因になりうる

老犬ホームあんは、さらに踏み込んだことを書いています。

向きを変えると嫌がって暴れる…寝たきりで暴れると肩・股関節を中心に動かすので 結局 床ずれになってしまいます

そのうえで、同施設は獣医師と相談したうえで無理に向きを変えずにケアするという選択肢を挙げています。

暴れる犬を押さえつけて2時間おきに向きを変えることが、かえって床ずれを作る。これはプロの現場からしか出てこない話です。

回数を増やせない状況では、圧のかかり方そのものを変えるほうへ発想を切り替えてください。体を支える敷物を見直す、隙間をクッションで埋めて一点に圧が集中しないようにする、といった方向です。マットの選び方はこの記事の後半で扱います。

そして、どう動かすか・動かさないほうがいいかは、犬の状態を診ている獣医師にしか判断できません。「うちの子は暴れるので向きを変えられない」と正直に相談してください。プロの施設も同じ相談を獣医師にしています。

夜間の体位変換には、値段がついている

夜間の対応を公式に明記していた施設は、65施設のうち4施設(6.2%)でした。

逆に、夜間は人がいないと自ら書いている施設も4件あります。

  • 「夜間は無人となります」(Con tutti)
  • 「夜間13時間程無人」(I・STYLE)
  • 「夜間はスタッフ不在となります」(Perche。後述する夜間見回りが有料オプションの施設です)
  • 長期ステイが月14.3万円からという施設でも「24時間常駐ではありません」(シニアDOGハイム)

そして、夜間の対応に値札を付けている施設が2件見つかりました。ここが最も分かりやすい実測です。

老犬ホーム・KOMUGI(山口県)

「自力で起き上がれない状態等夜中に処置が必要の場合」として、1日500円/1か月7,000円/6か月35,000円を設定しています。同施設は公式サイトに計算例まで載せていて、柴犬16歳・寝たきりで6ヶ月預けた場合の総額を37.5万円と示しています。

Perche(大阪府)

夜間の見回りが有料オプションです。18〜21時は1回1,000円・2回1,800円、21〜24時は1回1,500円・2回2,800円。時間が遅くなるほど高くなります。そして24時以降の設定は存在しません。

夜中に人が動くことには、はっきりお金がかかります。家庭でその作業を無償で担っているのが、飼い主です。自分の睡眠を削って続けているものに、プロの世界では1回1,000〜1,500円の値段がついている——この事実は、頑張りが足りないと感じている人にこそ知ってほしいところです。

悪化の段階と、いつ病院へ行くか

床ずれは進みます。進み方によって、様子を見ていい段階と、その日のうちに病院へ行くべき段階が変わります。

ここでは治療法には触れません。当サイトは施設と料金を実測するサイトで、傷の処置は獣医師の領域だからです。飼い主が目で確認できることだけを並べ、受診の緊急度に落とします。

見えている状態 どうするか
押すと白くなる赤み。毛はある 圧が集中しているサイン。敷物と姿勢を見直す。次の診察のときに相談
押しても白くならない赤みが続く。同じ場所の毛が薄い 数日以内に受診。皮膚が破れる前に相談できる段階です
皮膚が破れている。浸出液が出ている 今日中に電話して指示を受ける
傷が深い。においがある。膿が出ている すぐに受診
傷の中に空洞がある。骨や腱が見えている すぐに受診。家庭で対応できる範囲を超えています

判断に迷ったら電話をしてください。動物病院は電話での相談を受け付けているところが多く、写真を見せられれば話が早くなります。

そして、傷ができてしまった場合に自己流の処置をしないでください。傷の深さや感染の有無は、見た目だけでは判断できません。皮膚の表面が小さく見えても、その下に広がっていることがあります。傷ができたあとは、獣医師の指示に従ってください。

【実測】床ずれの治療費|「床ずれ」という料金項目は存在しない

いくらかかるのかを調べました。動物病院と大学附属動物病院の公式料金表を当たった結果、まず分かったのはこれです。

「床ずれ」という名前の料金項目を公開している動物病院は、1件もありませんでした。

あるのは「創傷処置」「外傷処置」「消毒・創傷洗浄」といった汎用の項目です。床ずれは、その処置のひとつとして扱われます。公式に料金を公開していた8施設(北海道大学・宮崎大学・鹿児島大学の各附属動物病院と、一般病院5施設)から、該当しうる項目を拾いました。

項目 金額の幅 中央値 n
軽度の創傷処置(1回) 1,000〜4,040円 1,375円 6
重度の創傷処置(1回) 13,200〜29,430円 17,910円 4
入院1日(小型犬) 2,200〜8,800円 4,400円 5
包帯・被覆材 1,000〜6,810円 — 4

金額は2026年8月19日時点で各病院が公開していたものです。税込か税抜かの表記は病院によって異なるため、断定していません。

料金表を見ると、重症度がそのまま値段になっている

興味深いのは、大学病院の料金規程が処置の重さで段階を分けていることです。

  • 宮崎大学:創傷処置をA〜Jの10段階に分け、1,100円から13,200円まで
  • 鹿児島大学:処置にかかった時間で刻み、15分未満1,950円から60分以上13,820円まで
  • 北海道大学:切開の有無などで4段階、4,040円から29,430円まで

軽度と重度で10倍以上の開きがあります。前の章で、皮膚が破れる前の段階で受診してほしいと書きました。費用の面でも同じことが言えます。早く気づくほど負担は軽くなります。

負担を決めるのは単価より回数

もうひとつ、料金表からは見えにくい点があります。床ずれの処置は1回で終わりません。傷の状態を見ながら、しばらく通うことになります。

仮に、軽度の処置(実測の中央値1,375円)と再診料(実測した大学病院の例で1,650円)が週2回、4週間続いたとします。それだけで約24,200円です。これは当サイトが実測値から組んだ試算で、どこかの病院が公開している金額ではありません。実際の回数と単価は犬の状態と病院によって変わります。

それでも、単価だけを見て「1回1,000円台なら大丈夫」と考えると、想定から外れます。床ずれの費用は、1回いくらではなく、何回通うかで決まります。処置の内容や通院の間隔は獣医師が決めることなので、見通しは受診のときに聞いてください。

ペット保険は床ずれに使えるか

「保険に入っていれば大丈夫」と考えたくなるところですが、確認したほうがいい点が複数あります。

まず、ペット保険3社の約款を全文検索して「床ずれ」「褥瘡」という語を探しましたが、1件も出てきませんでした。床ずれを名指しで免責(補償しない)にしている会社は見当たらない、ということです。

ただし実務上の壁が3つあります。

1. 寝たきりの犬は新規加入が難しい

保険会社は加入時に健康状態を審査します。すでに寝たきりや要介護の状態にある犬は、加入できないか、条件が付くのが一般的です。

2. 加入前からある傷病は対象外

これはどの会社の約款にも書かれている基本ルールです。床ずれができてから慌てて加入しても、その床ずれには使えません。

3. マット代は補償されない

ある会社の約款には「医薬品以外のすべての物品」が対象外と明記されていました。体圧分散マットもオムツも、治療を伴わない介護の費用も、保険の対象外です。床ずれ対策でお金がかかるのは主にここなので、この点は大きい。

さらに見落とされやすいのが、通院補償の日数制限です。実測した2商品では、年間20日と22日という上限がありました。床ずれのように「1回1,000円台の処置を何十回も繰り返す」タイプの傷病では、支払限度額に届く前に日数で頭打ちになる可能性があります。

加入している方は、金額の上限だけでなく日数の上限も確認してください。

寝床とマットの選び方|差を生むのは厚みではなく素材

犬用の床ずれ防止マット・体圧分散マットを、メーカー公式サイトと公式ECから実測しました(8製品・2026年8月19日時点)。

価格は税込8,338円から44,000円まで、5.3倍の開きがありました。

素材別に並べるとこうなります。サイズは製品ごとに違うので、金額をそのまま比べるのではなく、素材による水準の差として見てください。

素材 価格(各社の大型犬向け・税込)
ウレタン2層 23,980円
低反発2層 35,530円
ジェル2層 38,500円
エアー 41,800〜44,000円

価格の水準を決めているのは素材でした。そして厚みは価格の説明になりません。ジェルタイプは厚さ1cmで38,500円、ウレタンタイプは厚さ6cmで23,980円です。厚いほうが安い組み合わせが現に存在するので、厚ければ良いというものではありません。

見るべきは4つの仕様

実測した8製品を比べると、価格差はこの4点に集約されました。

  • 2層構造か(8製品中6製品):硬さの違う層を重ねて、沈み込みすぎと底付きの両方を防ぐ設計です
  • 洗えるか(5製品):カバーだけか、本体も洗えるかで手間が変わります
  • 防水か(3製品):排泄の失敗が続く時期には差が出ます
  • 持ち手があるか(2製品):犬を乗せたまま動かせるかどうかは、体重が重い犬ほど差になります

底付きは特に大事な観点です。あるメーカーは公式に「やわらかい低反発ウレタンだけでは底付きしてしまいます」と書いています。柔らかければ体圧が分散するわけではなく、沈み込んで床に当たってしまえば意味がありません。

レンタルできる製品がある

もうひとつ、あまり知られていない選択肢があります。エアマットタイプにはレンタルを用意しているメーカーがあります。

実測では、7日3,960円/30日11,880円/90日23,760円(いずれも税込)という設定でした。購入すると41,800〜44,000円する製品なので、3ヶ月使っても購入価格の半分強です。合うかどうか分からない段階で試せるのは現実的です。

人間用の介護マットを流用するのは安くない

「人間用のエアマットを使えば安いのでは」という話を見かけますが、実測すると成り立ちません。

人間用エアマットの購入価格は224,000〜250,580円で、犬用の6〜7倍でした。月5,020〜11,500円で借りられるという情報もありますが、あの価格は介護保険制度による貸与です。ある事業者の公式サイトには「レンタルは要介護2以上の方が対象」と明記されていました。犬には使えません。

なお実測の途中で、あるメーカーの高反発ファイバーベッド・ビーズベッド系7品番が、公式ページごと消えていることが分かりました(廃番と見られます)。他サイトで紹介が続いている製品でも、買う前に公式サイトで現行品かどうかを確認してください。

手作りで足りる範囲と、足りない範囲

床ずれ対策の手作りは、実際に有効な場面があります。ただしどこまでが手作りの範囲かを間違えると危ないので、費用と一緒に境界を引きます。

まず費用の実測です。

手作り 材料費 市販品 差
保護パッド1枚 約8〜20円(月240〜1,200円) — —
ドーナツ枕1個 248〜798円 1,364円 42〜82%安い
小型犬用マット 約500円(市販マットをカット) 8,338円 大幅に安い

確かに安く済みます。そのうえで、差額が何を買っているのかを見てください。前の章で挙げた4つの仕様——2層構造・洗える・防水・持ち手——は、手作りではほぼ全部が欠けます。最大でも8,000円弱の差で、この4点が手に入るという見方もできます。

市販品にしたほうがいい5つの場面

次のどれかに当てはまるなら、手作りではなく市販品を選んでください。

  1. すでに傷ができている:傷の周りは清潔と乾燥の管理が必要で、洗えない・防水でないものは向きません
  2. 全身を乗せるマットとして常用する:部分的なパッドと、体全体を支えるマットは別物です
  3. 排泄の失敗や浸出液がある:防水と洗濯のしやすさが毎日の手間を決めます
  4. 体重が重い:底付きします。厚みだけでは支えられません
  5. 留守番中に使う:噛んで中身を飲み込む事故が起きます。あるメーカーが噛み対策の生地を標準装備しているのは、それが現実に起きるからです

手作りが向くのは、部分的な保護パッドや、特定の部位を浮かせるための枕です。全身を支える寝床と、傷ができたあとの管理は、市販品と獣医師の領域と考えてください。

施設に聞くなら、頻度より「頭数」を聞く

老犬ホームを検討するとき、「体位変換はどのくらいの頻度でやってもらえますか」と聞きたくなります。その質問はあまり実効的ではありません。すでに書いたとおり、頻度を約束している施設は実測65施設のうちゼロで、「定期的に行います」という回答は業界の定型文だからです(別々の県の2施設で、FAQの文章が一字一句同じでした)。

代わりに聞くべきことがあります。実測の中に、判断材料になる基準がありました。老犬ホームを併設する桑原動物病院が、老犬ホーム協会の認定基準として次を公開しています。

職員1人の管理頭数が15頭を超えない

人が何頭を見ているか——これは頻度と違って、その場で数えられます。見学のときに、預かっている犬の数とスタッフの人数を聞いてください。同院は「特に寝たきりの高齢犬の場合、定期的に寝返りの補助を行わなければ床ずれが起きます」とも書いています。

聞くとよいのは、この3つです。

  1. いま何頭預かっていて、日中と夜間それぞれ何人のスタッフがいるか
  2. 夜間はスタッフが常駐するか。しない場合、夜のあいだ犬はどうなるか(実測では65施設中4施設が「夜間無人」と自ら公表していました)
  3. 寝たきりの犬に追加料金がかかるか。夜間の処置は別料金か(1日500円、1回1,000〜1,500円といった設定の実例があります)

施設ごとの料金と受け入れ条件は、こちらにまとめています。

→ 関連記事:老犬ホームの料金相場はいくら?全国48施設の実測データで解説【2026年版】

→ 関連記事:全国の老犬ホーム一覧【120施設・料金実測つき】

自宅で続けられなくなったときの選択肢

床ずれの予防は、道具の問題である以上に体制の問題です。誰が、いつ、何回、体の向きを変えるのか。それを1人で24時間担う設計は、最初から無理があります。

現実的な選択肢は3つあります。

1. 分担する

家族がいるなら、夜間の担当を曜日で固定してください。「つらくなったら代わる」では、限界の日ほど頼めなくなります。

2. 短期で預けて休む

老犬ホームやペットホテルには短期預かりがあります。数日眠るだけで、続けられる期間が変わります。料金は施設によって幅があるので、下の一覧で確認してください。

3. 長期・終身で預ける

夜間の体位変換に人手が必要な段階では、施設のほうが体制として現実的な場面があります。ただし施設によって夜間体制も料金も大きく違うので、上に挙げた3つの質問で確かめてください。

→ 関連記事:老犬が寝たきりになったら。自宅ケアの基本と、限界が来る前に知る預け先【実測データ】

→ 関連記事:老犬の介護に疲れたら読んでほしい。限界サインと「休む」ための現実的な方法

→ 関連記事:老犬の介護用品はどれから揃える?段階別の必要リストと費用の実測データ

まとめ|頻度で自分を責めない

老犬ホーム65施設の公式サイトを読んで分かったのは、「2時間おき」という数字を、プロの誰も自分の運用として約束していないということでした。ある施設は「実際は非常に難しいです」と書き、2施設は「完全に予防することは困難」と明言しています。

だから、その頻度を守れないことで自分を責める必要はありません。守れないのは、頑張りが足りないからではなく、1人では回らない設計だからです。夜中に人が動くことには、プロの世界で1回1,000〜1,500円の値段がついています。

できることは残っています。

  • 毛をかき分けて、骨の出た部分を毎日見る
  • 押しても白くならない赤みの段階で受診する(費用も軽度なら1,000円台、重度になると1万円台後半に跳ね上がります)
  • 底付きしない敷物を選ぶ(厚みではなく素材と構造で選ぶ)
  • 夜間や日中不在の時間をどうするかを、先に決めておく
  • 続けられなくなる前に、預ける選択肢を調べておく

床ずれは、できてしまうと治りに時間がかかります。そして完全な予防が難しいことは、プロ自身が認めています。目指すのは「絶対に作らないこと」ではなく、「早く気づいて、続けられる形にすること」です。

調査・執筆:老犬ホームナビ編集部(運営者:成田 風輝)。老犬ホーム65施設の公式サイト計1,846ページ、動物病院・大学附属動物病院8施設の料金規程、ペット保険3社の約款、マット製品8点のメーカー公式ページを2026年8月19日に確認して作成しました。当サイトは獣医師による監修を受けていません。傷の処置・治療に関する記述は行わず、観察と受診の目安、費用、施設の実測に限定しています。公式に記載がない項目は推測で埋めず「記載なし」と書いています。料金は改定されるため、最新の金額は各社にご確認ください。